岐阜地方裁判所 昭和25年(モ)12号 判決
債権者 日本電気産業労働組合岐阜県支部
右代表者 執行委員長
債務者 日本電気産業労働組合大垣分会
右代表者 執行委員長
仮処分申請 岐阜地方大垣支部昭和二五年(ヨ)第四五号(注参照)
一、主 文
債権者債務者間の昭和二十五年(ヨ)第四五号決議の効力停止等仮処分申請事件につき岐阜地方裁判所大垣支部が昭和二十五年八月一日なした仮処分決定(別紙注参照)はこれを取消す。
債権者の本件仮処分申請はこれを却下する。
訴訟費用は債権者の負担とする。
此の判決は第一項に限り仮に執行することができる。
二、申立の趣旨
債権者代理人は、「債権者債務者間の昭和二十五年(ヨ)第四五号決議の効力停止等仮処分申請事件につき岐阜地方裁判所大垣支部が昭和二十五年八月一日なした仮処分決定はこれを認可する。訴訟費用は債務者の負担とする。」との判決を求めた。
三、事 実
(一) 日本電気産業労働組合(以下電産と略称する)は、全日本の電気産業に從事する労働者を以て組織する労働組合法上の單一労働組合であり、債権者日本電気産業労働組合岐阜縣支部(以下單に岐阜縣支部と略称する)は、この組合に加入している岐阜縣内における電気産業に從事する労働者を以て組織する下位組合であり、債務者日本電気産業労働組合大垣分会(以下單に大垣分会と略称する)は、大垣市南高橋町二丁目二十五番地所在中部配電株式会社大垣営業所に雇傭せられる労働者を以て組織する債権者岐阜縣支部の下位組合である。而して電産には最高決議機関として中央大会があり、中央大会に次ぐ決議機関として中央代表代議員会があり、又最高執行機関として中央執行委員会があつて電産規約と中央大会及び中央代表代議員会の決議とに從つて業務を執行し責任を負うものであり、中央執行委員会の常時活動機関として中央常任執行委員会がある。
(二) 電産の中央常任執行委員たる藤田進等所謂民同系のものは昭和二十五年七月六日開催された中央常任執行委員会において電産の組織問題について論議し、電産の組織活動方針につき所謂「石川案」なるものを提案して十五対五を以てこれを採決し、同年七月十日及び十一日の二日間中央執行委員会を開き、右「石川案」を中央常任執行委員会案として提案した。中央執行委員新明一郎他二十五名は右中央執行委員会において徹底的に反駁してこれを阻止しようと奮鬪したが、これらの委員二十六名は特別指令案(右「石川案」)支持の民同系の者等がどこまでもこれを押切ろうとしたので遂に止むなく退場した。こゝにおいて中央執行委員会は電産規約第二十三條による三分の二以上の定員数を欠き成立しないことになつた。然るに民同系中央常任執行委員藤田進等は右退場による中央執行委員会の不成立を所謂機能停止と称し、規約に認められないのに、中央執行委員会が消滅したものと一方的に宣言し、今後中央執行委員会においてとるべき決議及び指令は中央常任執行委員会のみによつてその執行の責任を持つと決議した。そうして昭和二十五年七月十二日下位組合たる債権者電産岐阜縣支部に対し「電産非常事態收拾に関する特別指令」(疏甲第七号証の二)を発送し、この指令に從うべきことを支部傘下の組合員に命じた。そこで岐阜縣支部傘下の大垣分会は同年七月二十二日大会を開いて右特別指令を確認しこれに從つて行くことを決議した。
(三) ところが、右特別指令は電産から共産党員及びその影響下にある組合員を排除せんとするものであり、これは日本国憲法第十四條、労働組合法第五條第四号によつて保証せられた政治的活動の自由に基き制定された電産綱領第一項及び電産規約第四條により認められた、政見の自由をふみにじり団結権を侵害するものである。それ故右特別指令は電産綱領規約に違反し規約の変更となるから若しこのような指令を実行するには当然中央大会において決定されねばならないものである。從つて右特別指令は綱領第一項及び電産規約第四條、第七十九條、第七十六條等に違反しているから当然無効なものである。
(四) 第六回乃至第十回中央執行委員会が流会となつたのは眞の組合民主主義を守るためのものである。即ちこの執行委員会は民同派が組合本來の使命たる労働條件の維持改善に逆行するような方向をとろうとしたので、統一派がこれを憂慮してその決議を不成立ならしめんがためである。右のように規約に基いた決議がなされることによつて規約に基く目的が到達出來ないと考える小数派が、規約による決議の不成立を目的として流会することは、規約自体が小数者の利益を擁護して多数者の專制横暴を抑制する立前をとつているのであるから、少しも規約の趣旨に反するものでなく、又それが民主主義を蹂躙したり、多数決原理を無視するものではない。又第五回中央大会は民同派こそが無法にも代議員を失格せしめて入場を拒否したので、これを押切つてその職責を果さんとしたところ、民同派は不利と見て遂に流会戰術に出て大会を無期延期したのである。その他世界労連加盟決議とか地域人民鬪爭等については本件に何等関係のないことである。以上のように中央大会が無期延期となつてもこれを開催出來ないものでもなく、又中央常任執行委員会は常時活動機関であつてもそれは執行機関で大会の決議に基くもので、大会が流会となつても中央常任執行委員会が当然に非常事態を宣言したり、本件のような憲法、労働組合法、電産綱領規約等に違反する特別指令を出し得る権限はなく、又これを合法化する何等の根拠もない。
(五) ところが債務者分会は前記二の決議に基き今後活動を開始するから当然この活動に要する費用を分会の財産から使用することは明かであり、又この特別指令によれば今後中央本部に改めてこの指令に從う分会の届出をさせ、それを正式の電産加入のものとして認めて行く方針であるから、債権者支部がこの当然無効である特別指令を無視して行く限り、債務者分会は債権者支部に対して從來のように所属分会員から徴收した組合費を今後は納入しない恐れも十分ある。それ故かかる状態を放置するにおいては債権者支部が眞に労働者のため鬪う団結を強化し、規約綱領を守つて組合を民主的に運営することができず、一日も早くこれを克服しなければ岐阜縣支部の政治的活動の自由、団結権に対し回復することの出來ない著しい損害が生ずる。よつて申請人は、債務者分会が昭和二十五年七月二十二日開催された大会でなした、一九五〇年七月十二日電産中央常任執行委員会発令の特別指令確認決議を仮に無効とし、債務者分会による右決議に基く分会財産の使用を禁ずることを求めるために本件仮処分申請に及んだものである。
そうして債務者の主張する本案前の抗弁に対して次のように述べた。
(一) 労働組合法第二條に所謂連合体の労働組合というのは單一の労働組合が二個以上合体している場合(連合)と單一労働組合でも上位下位の関係において一單位としてそれ自体としても独自の社会的機能を果す多数の下位組合たる組織を合体したものを含むものである。而して岐阜縣支部がその下位組合たる分会を包含しているもので分会と支部との関係は部分と全体である。かくして部分もそれ自体の活動機能を持ち、全体も一個独立の社会的作用を果す限りにおいてそれぞれ当事者能力が認められる。
(二) 正当な当事者とは訴訟の当事者が当該訴訟を遂行し得る権限があるかどうかということであつて、本件仮処分は債権者支部が所謂特別指令を以て憲法規約に違反した違法のものであることを確認し、かゝる指令を無視して行く方針を決定したのに、この方針から逸脱して行こうとする支部傘下の分会の行爲を停止させようとする趣旨で、支部に加入し、その規約に拘束される分会としては当然の結果でなければならない。又電産の組合費は電産規約第五十七條によれば分会執行委員会から夫々上の執行委員会即ち支部執行委員会を通じて中央執行委員会に納めることになつている。そうして現在中央本部の民同派は中央執行委員会は機能を停止したと称しているからこれが納めようもなく、その保管の責に任ずべきものは支部である。又電産規約第五十八條によれば中央本部は右組合費の中十分の三以上の配分金額を有し、支部以下の配分金額は地方本部で決めることになつており、債権者支部は中部地方本部において約十分の二を配分されている。電産規約上においても分会に集つた組合費は支部でこれを取纏め、支部はその中から配分金額を控除してその残金を納入する立前であり、前記のような違法な行爲について分会費用が費消されて行くということは分会の活動を統制している支部としては直接の利害を有することは疑がないのであるから、こゝに正当な当事者ということができるのは当然である。(立証省略)
債務者代理人は主文第一項乃至第三項同趣旨の判決を求め、先ず本案前の抗弁として次のように述べた。
一、電産は法人であつて電気事業に從事する労働者を組合員とする労働組合である。そうしてこの運営の方法として中央本部を東京都に置き、地方本部を北海道、東北、関東、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の九地方に置き夫々の名をつけて呼び、支部を各都府縣に置き夫々の名をつけて呼び(但し北海道地方は別にこれをきめる)、分会を本店、支店、支社、電力所、特定火力発電所、営業所、配電局或はこれらに準ずる單位に置くという構成を有しているがこれは何処迄も構成部分であつて單一独立のものではない。即ち、
(一) 債権者には独自の規約なるものがない。電産規約第五十條には「地方本部、支部及び分会の規約はこの組合規約に準じてそれぞれ地方本部、支部及び分会でつくられ一級上の執行委員会に承認を求める」とあり、債権者支部規約第一條には「この規約は日本電気産業労働組合規約第五十條に依つて決める」とあり、又支部規約の変更には、同規約第四十二條に「この規約は支部大会で委任出席を含む出席代議員の四分の三以上の同意と地方執行委員会の承認がなければ変更出來ない」とあり何れも支部規約は自らの自主性に基き作成せられるのでなくて電産の規約に基きこれに依つて與えられたものであるから独自固有の規約ということを得ない。
(二) 債権者には独自の意思決定なるものはあり得ない。電産規約第九條によれば「中央大会はこの組合の最高決議機関である」とあつて支部は勿論地方本部と雖も独自の意思はなく総べて中央本部の意思決定に拘束せられることとなるので債権者支部には独自の意思決定なるものはあり得ない。
(三) 債権者には独自の会計がない。電産規約第五十三條、第五十四條、第五十六條、第五十八條の各規約によれば総べて会計は中央本部一本に集中せられ、支部等は独自の会計を有して居らない。又電産の会計処理規程(疏乙第六号証の一)第三條は「組合の会計は財政部に於て総括する」と規定し、第二十一條は「地方本部、支部及分会における所要資金は分配制としその金額は規約第五十七條の金額とする。但特別の場合は此の限りでなく、その手続は別に定める」と支部等に対する分配制を明白に規定している。又中央会計監査規程(疏乙第六号証の二)第二條は「組合会計の監査は中央会計監査が行う」と定め会計監査も亦中央本部の行う所であつて債権者支部等は独自の会計を有していない。
(四) 債権者は独自の行動を有しない。債権者は労働組合として最も必要な労働協約を締結する資格もなく、スト行爲に出る時も常に中央本部の指令の下に行動すべきで独自の行動を執ることは許されない。債権者等の支部規約には組合員の加入脱退の規定なく電産規約第六十九條乃至第七十二條に依り加入脱退は中央本部において行う所である。
以上述べた所に依り債権者は一個の組織体として認められるに必要な独自の規約独自の意思決定、独自の会計、独自の行動を有しないので、かくの如きものが、民事訴訟法第四十六條に所謂法人格なき社団として当事者能力を認められることはあり得ない。この点において本件仮処分申請は不適法であつて当然却下せられねばならない。
二、仮に当事者能力がありとするも本件仮処分申請をなす正当な当事者といわれない。債務者分会規約(疏乙第二号証の一)第三十條には「分会会計審査は分会執行委員でない組合員のうちから班毎に一名の割合で選ぶ」とあり、第三十一條には「分会会計審査は年二回以上会計審査をなしその結果を分会大会に報告しなければならない」とあつて分会の支出については分会の責任において分会自身の機関においてこれを行うことになつている。そうして中央会計監査規程(疏乙第六号証の二)によれば、その第十條には「中央会計監査は各級機関の監査を行うに当り左記書類の提出を求める。(イ)当該機関責任者氏名業務担当者氏名、(ロ)貸借対照表收支計算書(收支決算書)及明細説明書(ハ)その他必要なる書類」とあつて中央の会計監査においても分会それ自身の責任において債務者分会に配分せられた配分費を支出することになつているので、債務者分会の支出は債権者支部の指図監督を受けることは規約上あり得ない。又電産の会計については組合の各收入金は総て中央本部勘定とし各組合員の納める組合費は分会執行委員会からそれぞれ上の執行委員会を通じて翌月十日迄に中央執行委員会へ納める。組合費の配分は中央本部十分の三以内として地方の特殊事情に應じて配分金額を中央執行委員会できめる。支部以下に配分する金額は地方本部できめる。地方本部、支部及び分会で他の団体に対する分担金、寄附金は別途に賄うのであつて各組合員の組合費は総べて中央本部の收入となり、支部は中央本部から配分を受ける関係にあるので各組合員の組合費の不拂あるも、これについて直接利害関係あるは中央本部であつて支部ではない。それ故分会の組合費の不拂については支部は何等これに干渉する権限なしといわねばならない。果して然らば債権者は債務者に対し本件仮処分申請をなすにつき、正当な当事者ということはできない。結局この点において本件仮処分申請は却下せらるべきものである。
そうして本案については答弁として次のように述べた。
一、原告主張の二の事実中電産の中央常任執行委員たる藤田進等所謂民同系のものが昭和二十五年七月六日開催された中央常任執行委員会において電産の組織問題について論議し、電産の組織活働方針につき所謂「石川案」なるものを提案して十五対五を以てこれを採決したこと、同年七月十日及び十一日の二日間中央執行委員会を開き、右「石川案」を中央常任執行委員会案として提案したこと、中央執行委員新明一郎他二十五名が中央執行委員会において「石川案」に反駁しこれを阻止しようとして遂に退場し、三分の二以上の定員数を欠くに至つたこと、中央常任執行委員会のみによつてその執行の責任を持つと決議し、昭和二十五年七月十二日債権者支部に対し特別指令を発したこと、債務者分会が同年七月二十二日大会を開いて右特別指令を確認決議したことは認めるが、その余の事実は否認する。
二、原告主張の三の事実は否認する。
そうして更に次のように附陳した。
三、昭和二十五年二月以降日本共産党の指導下に組合を乘取らんとの僣志を懷く電産組合員の一部の分子は最も穩健なる民主的組合員の多数に圧倒せられ自己の野望が否定せられんとするに及び、組合の民主的運営を暴力デモによる妨害によつて大会の無期延期を策謀し、或は流会戰術によつて決議を不可能ならしめる等の挙に出た。即ち
(一) 昭和二十五年二月二十三日から同月二十七日にかけて中央本部で開かれた第六回中央執行委員会において同月二十七日午前三時当面の鬪爭方針に関する採決を前にして三十名は退場し本執行委員会を流会せしめ、
(二) 同年四月二十五、六日中央本部で開かれた第七回中央執行委員会において第二日目の二十六日関西のスト中賃金不拂鬪爭報告に対する討論がなされ、十七時本問題に関する討論を打切り、承認、不承認の採決に入り決定しようとしたが二十八名は退場し右委員会を流会せしめ、
(三) 同年五月二十七、八日奈良市で開かれた第八回中央執行委員会において第二日目の二十八日猪苗代分会の問題が討議されようとした時二十一名は退場し右委員会を流会せしめ、
(四) 同年五月三十日奈良市で開かれた第九回中央執行委員会において、中央大会の開催対策に関し中央常任執行委員会で集約決定された十項目が発表せられ、これを中心として討論がなされ採決に入ろうとした時反対者は退場し右委員会を流会せしめ、
(五) 同年七月十、十一日中央本部で開かれた第十回中央執行委員会において特別指令に関し採決に入ろうとした時二十六名は退場し右委員会を流会せしめ、
(六) 同年五月二十九日、三十日奈良市で開かれた第五回中央大会において大会第一日目午前九時半頃金属、化学等他労組の者と共に中央常任執行委員山本を含む約三百名が会場入口から一斉に突入し、遂に大会開催を不可能とならしめたのみならず婦女子を含む組合員五名に暴力を以て流血の惨事を起し、遂に第五回中央大会は無期延期となり、
(七) その他第四回中央大会決定による世界労連未加入決議に違反してこれに加盟決議を行い、
(八) 第四回中央大会決定による集約鬪爭に違反し、組合員を地域人民鬪爭にかりたて指令違反を起し、
(九) 昭和二十五年七月十一、十二日東京都における電産全国統一代表者会議の決定を以て電産正統派なりとして組合員に流布するが如き分裂行爲をなし、
(一〇) 猪苗代分会における中央指令反対行動、並びに反共組合員及びその家族に対する脅迫的行爲をなした。
四、第五回中央大会が無期延期となつたのは、右のようにその責任は全く「統一派」と称する暴力革命的共産党分子の破壞的行動に存するのである。從つてこれらの分子がその態度を改めない限り大会を招集する度に第五回中央大会の轍を繰返すことは明瞭である、しかしながらこれら分子が何等客観的状勢の大変轉がない限りその態度を改めるということは想像できないのみならず、その背後からこれ等を指導する日本共産党が同党の戰術に関する野坂理論をコミンフオルムから批判されて以來その行動において益々暴力革命的色彩を濃厚ならしめて來た今日においては、これを期待することは不可能であり現状勢下においては中央大会の開催はできない。
次に中央大会に次ぐ決議機関である中央代表代議員会の招集については、中央代表代議員は中央大会の代議員の互選によるものであり、組合員全体から選出されるものでなく、中央大会の規模を小さくしたものに過ぎないので、暴力的共産分子の存在を許す限り第五回中央大会の過誤を繰返すか若くは流会戰術に出られることは火を見るよりも明らかであるから、これまた招集はできない。そこで大会無期延期乃至中央執行委員会流会の責任者たる中央代議員又は中央執行委員会流会の責任者たる中央執行委員を召還する方法についてであるが、代議員についてはその所属する支部組合員の過半数の要求のあること、中央執行委員についてはその選ばれた地方本部組合員の過半数の要求のあることを要件としているのであるから、実際問題としては組合員過半数の署名をとるということはいうべくして容易に行い得ないことであるのみならず、幸い相当の期間を費してその署名を得たとしても支部又は地方本部の大会を招集してこれを議題に上程するのは夫々の執行委員会の権限であるから、この召還に反対意見を有する執行委員会は規定には「直ちに」とあつても仲々大会招集の手続をとらないことが推察できる。又召還が認められた後の補欠選挙の煩雜な手続等も考慮しなければならならないから結局召還ということも支部又は地方本部の執行委員会の意向に左右されるという結論に達する訳でこの手続は事実上実施され得ないことである。以上のように事実上中央大会、中央代表代議員会の招集並びに召還手続等は現在の状勢下において実施困難な外財政面からするも中央大会の開催には一回の経費約一千万円、中央執行委員会の開催には一回三十万円乃至五十万円の巨費を要するのであるから不成功に終ること略確実な前記手続はいうべくして仲々行い得ないというの他はない。
五、右のような次第で電産の最高決議機関である中央大会は無期延期となり、最高の執行機関である中央執行委員会は流会に流会を重ねたので事実上中央常任執行委員会が電産の執行機関として活動すべきは当然である。そうして中央執行委員会は電産規約と中央大会及び中央代表代議員会の決議とに從つて業務を執行することになつているから中央常任執行委員会も電産規約と中央大会及び中央代表代議員会の決議に從つて業務を執行すべきことは勿論である。ただここに中央大会の決議というのは奈良市における第五回中央大会は無期延期となつたのであるから現在においては別府市における第四回中央大会の決議ということになる。中央代表代議員会の決議というのは昭和二十二年八月の長岡における代表代議員会の決議が一回あるだけであるが、これは次の上諏訪における第二回中央大会で否認せられたから現在はこれに從うべくもない。
六、別府市における第四回中央大会において「組織の確立」「合法斗爭の展開」及び「地域斗爭を排して中央指令に基く集約斗爭の展開」を決議したのであるが、その後の経過を見るに暴力的共産党分子は日本共産党指導の下に、
(一) 昭和二十四年十二月停電ストの中央本部指令に反して関東地方本部に事務スト指令を下位機関に発せさせ、
(二) 昭和二十五年二月中旬中央本部の再三の制止にも拘らず北陸地方常願寺分会を單独電源ストに突入させ、
(三) 同年三月上位機関の再三の中止をも肯んぜず電源停止による單独ストを決行させ、
(四) 同年三月中央本部の指令に反して大阪府支部尼一、尼二、東尼分会に單独電源ストを強行させ、
(五) 同年四月中央本部から一切の実力行動を停止する旨の指令を出したのに拘らず関東地方本部、関西地方本部及び東北地方猪苗代分会等に更に斗爭指令を発せさせ、
(六) 同年三月中央本部並びに九州地方本部の指令に反して福岡支部港発電所分会に單独電源ストを決行させ、
(七) 関東地方本部、関西地方本部の執行委員会に中央本部への組合費納入を懈怠させる等組合の統一を濫す行動をなし、遂には前述の如く数次に亘り中央執行委員会を流会させたほか第五回中央大会に流血事件を惹起する暴力行爲によりこれを無期延期するの已むなきに至らせた。かくして今や組合は僅かに中央常任執行委員会によつてその機能を保つに過ぎない状態であるがそれさへも指令違反が随所に行われるとあつては組合の活溌な活動は得て望むべくもない。右のような状勢下において綱領規約の精神を生かし別府大会の決議を実践し組合の統一を図る爲には本件特別指令を出す以外に方法はなかつた。
七、右特別指令は決して各組合員の信條や政見を抑圧するのではなく、この組合員が自己の主義政見を他の組合員に押付け又は多数決原理を無視して暴力や義務違反行爲により組合全体に自己の主義政見を強要することこそ、他の多数者の主義、信條、並びに政見を無視強圧するものであり、組合活動の妨害者にして団結の破壞者なることを鮮明ならしめ、これと徹底的に戰うことを明言したに過ぎない。從つてこの特別指令は何等綱領、規約に反しないものである。
八、既に本案前の抗弁二において述べたように、債権者は債務者の組合費納入に関する権限がないだけでなく、支部が分会の財産を監督する権限はなく、分会はその責任において分会の財産の支出をなすことができるので、これに対して権限のない債権者が仮処分申請をなすも何等保全すべき利益は存しない。(立証省略)
四、理 由
一、先ず債権者債務者の当事者能力について考察する。
(一) 当事者間に成立について爭のない疏乙第一号証(電産綱領規約等)、同第二号証の一(岐阜縣支部規約等)、同第二号証の二(大垣分会規約)、同第六号証の一(会計処理規程)、同第六号証の二(中央会計監査規程)を綜合すれば、
(イ) 電産は法人であつて電気事業に從事する労働者を組合員とする労働組合であり、その運営の方法として中央本部を東京都に置き、地方本部を北海道、東北、関東、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の各地方に置き、それぞれの名をつけて呼び、支部を各都府縣に置きそれぞれの名をつけて呼び(但し北海道は別にこれをきめる)分会を本店、支店、支社、電力所、特定火力発電所、営業所、配電局、或いはこれらに準ずる單位に置くという構成を有しており、
(ロ) 中央本部には電産の最高決議機関として中央大会があり、中央大会に次ぐ決議機関として中央代表代議員会があり、最高の執行機関として中央執行委員会があつて、電産規約と中央大会及び中央代表代議員会の決議とに從つて業務を執行し責任を負い、中央執行委員会の常時活動機関として中央常任執行委員会があり、中央執行委員長は電産を代表し、
(ハ) 電産の各收入金は総て中央本部勘定となつていて、電産の財産の管理及び收入と支出は中央執行委員会の責任であり、電産の予算と決算とは中央大会の承認を得なければならず、組合費の配分は中央本部十分の三以内として地方特殊事情に應じて配分金額を中央執行委員会できめ、支部以下に配分する金額は地方本部できめ、地方本部、支部及び分会で他の団体に対する分担金、寄附金は別途に賄い、電産の会計は財政部において総括し、電産会計の監査は中央会計監査が行い、
(ニ) 地方本部、支部及び分会の規約は電産規約に準じてそれぞれ地方本部、支部及び分会でつくられ一級上の執行委員会に承認を求め、地方本部、支部及び分会にはそれぞれこれらの名をつけた大会、執行委員会、常任執行委員会の機関を置くことに電産規約で定められ、
(ホ) 岐阜縣支部には岐阜縣支部規約があり、その規約により支部の決議機関としての支部大会、支部の最高執行機関としての支部執行委員会、支部執行委員会の常時活動機関としての支部常任執行委員会が設けられ、支部執行委員会は支部規約と支部大会の決議とに從つて業務を執行し責任を負うほか、上部の執行委員会の指示事項を処理し、支部執行委員長は支部を代表し、
(ヘ)大垣分会には大垣分会規約があり、この規約により分会の決議機関としての分会大会、分会の最高執行機関としての分会執行委員会、分会執行委員会の常時活動機関としての分会常任執行委員会が設けられ、分会執行委員会は分会規約と分会大会の決議に從つて業務を執行し責任を負うほか、上部の執行委員会の指示事項を処理し、分会執行委員長は分会を代表し、
(ト)電産の規約には組合員の加入脱退に関する規定があるが、岐阜縣支部規約、大垣分会規約にはそれがないことを認めることができる。從つて電産は個人加入の形式をとる労働組合で、団体加入の形式をとる連合団体たる労働組合とは異るものであるが、労働組合法第五條第二項第五号、第九号に所謂全国的規模をもつ労働組合であるといわねばならない。
(二) 元來労働組合は労働者の団結によつて労働者の地位の向上を図ることを主たる目的とするものであり、その地位の向上の中心をなすものは経済的地位の向上であり、経済的地位の向上にとつて主要なことは各職場における労働者の労働條件の向上でなければならない。しかも各地域の地理的環境、物價状況、各企業の経営状態、各職場の人員、物的施設等に相異があつて、同じく労働條件の向上といつても各職場の具体的状況に即應しなければならない以上職場を異にする労働者を構成員として全国的規模に亘る電産の如きにあつては、団体交渉や労働協約の締結等も一様に律するわけには行かず、各地域職場等の具体的事情を考慮して律せられなければならない。然る時は各地域、各職場毎に夫々異る利害関係を生ずるのも止むを得ないから、電産の如き所謂單一組合としての統制を強力にしようと思うならば組合が各地域、各職場の団体交渉、労働協約締結等の直接当事者とならなければならないが、そのようなことは労働組合結成以來日なお浅い我国の労働組合にあつては困難なことであり、又爭議行爲の如きものにあつては代表の観念は認められず、各地域、各職場等の労働者が自らなさねばならず、いきおい支部分会の如き下部組合といえども中央本部とは或程度独立して社会的機能を営まざるを得ない。
(三) そうして証人渡辺達也の証言によれば、長野縣支部がその管内の問題について地方労働委員会へ提訴し会社と協定を結んだことがあり、又分会が会社との間に建物の賃貸借契約を締結しておる事例も相当数あり、清水分会がその人員の配置轉換の問題について会社と爭い分会から地方労働委員会に提訴し、会社と協定を結びその協定書に分会として調印していることもあり、横の関係の労働団体にも支部や分会が中央本部とは別に加入しておる事例も多数あることを認めることができる。
(四) 以上によつて債権者支部、債務者分会の法律的性質を判断するに、電産は支部、分会に或程度の自治を許しながら電産としては支部、分会に所属する組合員を直接規律して行くことによつて電産の目的を達成せんとし、支部分会等を一面そのための機関として構成しているものであり、支部、分会所属の組合員は電産全体の規律に服しながら支部、分会の規律に服するという二重三重の規律を受けているものといわねばならない。そうして債権者支部、債務者分会はその自治に基いて一應独自の規約を有し、独自の決議機関、執行機関、代表者を有しており、資金の配付を中央本部から受けそれを独自の責任において自己の用途に供し、或程度の自主的な活動をする限りにおいて民事訴訟法第四十六條に所謂人格なき社団として訴訟上の当事者能力を有するものといわねばならない。
二、次に債権者支部、債務者分会の当事者適格について考察する。
(一) 債権者は、昭和二十五年七月十二日電産中央常任執行委員会が発した特別指令が憲法、労働組合法、電産綱領規約に違反して無効であり、債権者支部が右指令を無視して行く方針であるのに、債務者分会は昭和二十五年七月二十二日開催された分会大会で右特別指令を確認する旨の決議をなしたので、右決議によつて債務者分会が債権者支部に対して從來のように所属分会員から徴收した組合費を今後は納入しない恐れも十分あり、債権者支部の団結が侵害せられ団結権に対し回復することのできない著しい損害を生ずる恐れありとして債務者分会の右決議を本案判決確定に至るまで仮に無効とし、債務者分会による右決議に基く分会財産の使用を禁ずる仮処分命令を求めるものであることはその主張自体に照して明らかであるから、右仮処分は爭ある権利関係につき仮の地位を定めるためのものであり、債権者債務者間に爭となつている権利関係は債務者分会の決議の効力如何及びそれに基いて債務者が分会所属財産を使用し得る地位にあるかどうかということである。
(二) 然るに一、において述べたように電産は個人加入の形式をとる組合であり電産としては支部、分会に所属する組合員を直接規律するものであり、債権者支部と債務者分会との間においても債権者支部は債務者分会に所属する組合員を他面債権者支部の構成員として直接規律するものと解するを相当とする。即ち債務者分会を構成する組合員は同時に個人として債権者支部にも所属するのであるから、その組合員は債権者支部の規律を受けることによつて、債務者分会としての行動をなすに際しても債権者支部の方針に反することはできず、それに反しない限度において活動の自由を有するものである。從つて債務者分会は、その所属組合員が債権者支部の規律を受けることによつて、間接に債権者支部の規律を受けるものであるといわねばならない。しかしながら、元來労働組合は労働者が団体行動を行うために組織したものであり、組合員の団体行動を措いては組合員及び組合の活動というものは考えられない。しかも組合員は各職場において労働に從事しながら組合としての団体行動を行い、生計の資はその労働によつて得るのであるから各職場を離れて行動することは困難であり、又組合の活動の主要なものである爭議行爲は職場を背景として行われるものであるから、組合員の団体行動は各職場を中心としてなされざるを得ない。然るに電産のような全国的規模を有する組合にあつては、組合員の就業する職場も全国に散在するのであり、その職場を中心に団体行動をとる以上、地域的な団体行動を集積綜合して電産全体の団体行動とするより外に方法がない。本件における債権者支部の団体行動においても同様であり、債務者分会所属員は債権者支部の団体行動をなすに際してもその一環としての債務者分会の団体行動をなすより外に方法はないのであり、債権者支部が債務者分会に所属する組合員を債権者支部の構成員として規律するのは債務者分会をして債権者支部の意図する行動に出でしめるためであり、換言すれば、債権者支部は債務者分会所属員が債務者分会の行動としてなす団体行動そのものを規律せんとするのであり、從つて債権者支部にとつて直接利害関係のあるのは正に債務者分会の行動である。
そうして本件においては昭和二十五年七月二十二日の債務者分会における特別指令確認決議の効力及びそれに基く債務者分会の財産使用の権限が爭になつているのであり、右の決議及びそれに基く分会財産の使用ということが債務者分会所属員の組合活動としての団体行動そのものなのであるから、債権者支部にとつて直接利害関係のあるものといわねばならない。しかも右決議等は債務者分会の行動であり、個々の債務者分会所属員の行動の單なる集積ではない。即ち、債務者分会所属員の個々の行動が団体行動として債務者分会の決議という形をとつた時において債権者支部との間に爭が生じたのであり、從つて本件爭を生ぜしめている直接の利害関係者は債務者分会であるといわねばならない。以上のように本件決議の効力に対して直接の利害関係を有するものは債権者支部、債務者分会なのであるから本件仮処分申請において右両者が当事者適格を有することは当然といわねばならない。
三、更に本件仮処分における保全の必要について考察する。
(一) 一、において述べたように電産は個人加入の形式をとる組合であり、電産規約第六十六條によれば組合員は綱領規約及び決議に服する義務がある。そうして本件特別指令は中央本部の指令として発せられているのであるから右特別指令が有効とすれば債務者分会における右特別指令確認決議の有無に拘らず債務者分会所属員は右特別指令に直接拘束されるのである。
しかも当事者間に、成立について爭のない疏甲第七号証の一即ち疏乙第三号証(特別指令)、証人下平一一の証言によつて成立を認める疏乙第八号証、同第十三号証の各記載を綜合すれば、中央本部は全組合員に対し右特別指令に対する態度を決定させてその確認書を提出させることとし、組合員が個人で右特別指令を確認するかどうかの態度を決定している事実を推認することができ、右の事実は前段に述べたところを裏書するものといわねばならない。
(二) それでは本件特別指令確認決議は如何なる性質を有するものであろうか。債務者分会の右決議によつて始めてその所属組合員が特別指令に拘束されるものでなく、又右決議によつて特別指令の効力を左右することができるものでもないから、右決議の意図する所は、債務者分会所属員が団体行動として債務者分会の行動をなすに際して特別指令に從つて行き、從來通り中央本部の指揮下に留るということである。
(三) そこで今本件決議の効力を停止するならば、債務者分会所属員は特別指令に從つた分会活動ができなくなり、分会活動が組合員としての組合活動そのものなのであるから、債務者分会所属員は特別指令に從つて組合活動をすることができない結果となる。然るに債務者分会所属員は直接電産の構成員として電産全体の組合活動に参加する権利を有しているのであるから、特別指令そのものの効力が停止せられない限り、右指令に從い中央本部の指揮下にあつて、電産全体の右指令に基づく組合活動に参加する権利を有するものといわねばならない。從つて本件決議の効力を停止することは債務者分会所属員をして右の権利の行使を不可能ならしめることになるのである。他方債権者支部にとつても本件決議の効力を停止することは債務者分会所属員に右特別指令に從つた行動をさせないという効果を有するに過ぎず、債権者支部の完全な指揮下に債務者分会所属員を入れて、中央本部に反対の行動に出でしめる効果までも有するものではない。從つて中央本部と債権者支部とが右特別指令を廻つて反対の態度をとつておる以上、特別指令の効力そのものが停止せられない限り、債権者支部と債務者分会所属員との爭は解決せられず、債権者支部の団結を確保することは殆んど不可能であり、本件決議の効力を停止しても債権者支部の団結の維持回復にとつてさしたる効果のあるものではない。以上により本件決議の効力を停止することによつて債権者支部、債務者分会所属員乃至債務者分会に與える効果を考慮するならば、本件仮処分の申請は保全の必要を超える失当なものといわねばならない。
(四) 又右決議に基く分会財産の使用禁止の仮処分申請についても分会財産の使用ということが分会活動の一端であるから同様のことがいえよう。よつて債権者の本件仮処分申請は被保全請求権の審理をするまでもなく理由がないから、先に岐阜地方裁判所大垣支部がなした仮処分決定を取消し、本件仮処分申請はこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言につき同法第七百五十六條ノ二を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 伊藤淳吉 越川純吉 石井敬二郎)
別紙
(注)
仮処分申請事件
(岐阜地方大垣支部昭和二五年(ヨ)第四五号昭和二五、七、二五申請同年八、一決定)
申請人 日本電気産業労働組合岐阜県支部
右代表者 執行委員長
被申請人 日本電気産業労働組合大垣分会
右代表者 執行委員長
一、保証 金参千円
二、主文
被申請人日本電気産業労働組合大垣分会が昭和二十五年七月二十二日開催したる大会に於て一九五〇年七月十二日日本電気産業労働組合中央常任執行委員会が出した別紙「特別指令」を確認した決議の効力を本案判決確定に至る迄停止する。
被申請分会は、右決議に基き分会の財産を使用してはならない。
(岐阜地方大垣支部――裁判官 村上秀一)
(参考資料)
一九五〇年七月十二日
日本電気産業労働組合
中央常任執行委員会
電産非常事態收拾に関する特別指令
一、電産は組織上まさに非常事態に直面している。
冷戰より熱戰へと動乱を極めつゝある状勢下、コミンフオルムの批判を受けた日共は愈々その賣国的性格と暴力的本質を露骨化し、国際赤色フアツシズムの脅威を背景に組合支配の野望を達成せんものと、遂に我が電産第五回中央定時大会を暴力デモの使嗾によつて破壞するに至つた。この憎むべき暴挙と、未曾有の大会無期延期の実体を眼前に見た全国の眞面目な組合員は遂に此の事件の煽動者達より組合を断乎自らの手で守らなければならないことを決意するに至つたのである。即ちこれ等煽動者達は既に民主主義の敵であり、組合の破壞者であることを見究め、もはや彼等とは同じ電産組合員として行動を共にし得ないことを確認したものである。尚これ等組合の破壞者に同調する人々に対しても同様の態度を決定している。この事は大会無期延期後一ケ月にして既に各職場、各機関に於て自主的に決議された声明書決議文等が日を追つて夥しい数に上つている事実によつても明かである。
又飽くまでも民主々義否定の行動を持続している猪苗代、関東、関西、福岡、その他では既に眞面目な組合員は之等非民主的機関に対して絶縁を断行して居り、猪苗代分会は遂に電産組合より戰列除外の措置を受け、関西地方等に於ては中央直結が決議され、直ちに決然たる行動に移らざるを得ない状態に迄立至つているのである。
斯る事態はまさに組合員大衆自身が、もはやこの儘では斗つて行けない事を身を以て痛感し、組合民主化の叱びが澎湃として湧き起つたものである。
今やかくの如く組合内部に集団的に内在する極左暴力分子の独善と横暴と僞瞞はその極限に達し、中央本部としてもこの儘ではもはや何等の正常なる組合運営も斗爭推進も期し得られない非常事態に直面している事を確認するものである。
二、中央本部は大会決定を忠実に履行し、眞に組織の強化と組合の利益の爲斗爭を推進して來た。
別府大会に於て通告の斗爭の峻烈なる批判の上に立ち、ついに決定せられた「組織の有機的統一と、機関の責任と指導性の尊重」は実にこの一ケ年を通じて最高の指導精神であつた。この方針は組織の確立と民主的運営を妨害する者に対して常に民主々義の良き砦であつたのである。之を無謀にも踏み越えたのが猪苗代その他の指令違反の問題であり、関東地方本部、関西地方本部の組織無視の独善的分派行動であつた、中央本部は終始これ等極左分子の斗爭妨害と組織破壞の脅威を受けながらも大会決定に從い敢然として組合の利益を守り組織の強化に邁進して來たものである。即ち益々組織化し熾烈化した反動攻勢の中で、我々の生活権確保と電気事業民主化のため果敢なる斗爭を推進した。その成果は前執行部当時七六ベースが七一ベースに切下げられ、而も多くの彈圧と犧牲者を出した事に比べれば歴然たるものであり、就中三月のベースアツプ斗爭の勝利は大多数組合員の組織尊重を根幹とした決然たる中央集約斗爭の齎したものとして銘記されなければならない。然るに極左分子はこの眞劍な労働者の斗爭に終始妨害とマイナスを與え続けて來た。この事によつてももはや彼等の行動が誰の爲めのものであるかゞ明かとなつたのである。
而して此の間彼等は民主々義を破り、規約を蹂躙して前後四回に亘り中央執行委員会を退場流会せしめ、この爲組合は重要問題を控えて屡々機能痲痺の危機に追込まれた。然も彼等は日共の指導下、組合を無視し、ひたすら地域人民鬪爭と直接権力鬪爭に盲進狂奔し続けたのである。
中央本部はこれ等の妨害をはねのけ、組合の利益を守り拔く爲実に困難な鬪いを続けなければならなかつた。
三、民主的労働組合は多数決原理を基幹とする組合デモクラシーを堅持し、権利の正当な行使と義務の忠実なる履行が全員で守らるべきであり、且つその行動方針は平和と繁栄を指向するものでなければならない。
労働組合の存立の基盤が民主々義である事は、一点疑いの余地もない所であつて之に対しては如何なる侵犯も許されないが、况や惡意の否定的行動は之こそまさしくフアシズムのあらわれである。即ち民主的会議を暴力デモで妨害破壞した奈良に於ける共産党員の行動は明かに赤色フアツシヨであり絶対に容認し得ないものである。
又労働組合はあらゆる権力から独立であり自由であらねばならず、組合員一人々々が主体性を確立し権利の正当なる行使と義務の謙虚なる履行に対しては常に積極的でなくてはならぬ。この正しく自主的にして確固不動の団結こそは克くあらゆる妨害を排除して労働者の利益を守り、社会に平和と繁栄を斎らすものである。組合が政党に支配されたりボスに牛耳られたりする事は絶対に避けねばならぬ組合の基本的態度の一つである。
民主的労働組合は規約綱領と大会決定に從い、組織の有機的統一を保ちつゝ機関の指導的立場と責任を認めて、集中的に力を発揮させねばならない。この時こそ最も戰鬪的な勇猛心が鬪爭を勝利に導くのである。
以上の立場こそ民主的労働組合の立場であり、この方向にのみ我が電産の組織運営の基本方針が展開せられる事を確認するものである。
四、国際赤色帝国主義の利益の爲に組合デモクラシーを否定し、組織の破壞者たる日本共産党の指導に盲從する極左分子及びそれ等一切の影響を断乎排除する必要ある事。
戰後合法の仮面を被つた日共の暗黒支配下に牛耳られた労働運動は、二・一ストに於て最初の資本攻勢の立直りの隙を與え、その後平事件、日鋼事件、国電スト等々一連の暴挙は社会不安を助長させ多大の犧牲者を出し、あまつさえ反動陣営に眞面目な労働運動をまで彈圧させる口実を與えた事は否定し得ぬ事実である。又全逓国鉄をはじめ、我が電産をも含む多くの組合を自己の政治謀略に利用せんとして呪うべき赤禍を及ぼした事実に対しては、もはや同志ではなくハツキリ敵であるとの認識を深くするものである。以上の如く日共の罪惡は枚挙に遑なきものであるが、凡ゆる場合を通じて明白な事は彼等の行動が常に組合の決定よりも党の決定に忠実であり、共産革命遂行を唯一絶対の目標として他のすべてを手段視し、その野望達成の爲には如何なる混乱も暴力も敢て辞せぬ破壞的な傾向を有して居る事である。彼等の眼中には共産党以外の何物もなく、党員と無定見なる追随者以外はすべて之を反動と呼び反労働者階級的裏切者ウオール街の手先等々あらゆる罵り雜言を以て中傷誹訪し、抹殺し去らんと狂奔するのである。それは何故か、即ち彼等の企図を深く察知する眞に民主的な勢力の存在と増大が労働者を共産革命に利用せんとする彼等の陰謀を粉碎するからに外ならない。
而して彼等の無軌道なる独善的行動が遂に今次奈良大会を破壞するに至つては断々乎としてその暴力的極左勢力につながる一切の影響力を組合より駆逐する事が何よりも先決の問題である。この事なくしては今後の民主的組合の運営も組合の利益を守る鬪爭の遂行も期する事は出來ないのである。
五、非常事態に直面した電産は、上記の第三、四項を了解し之に同意する組合員によつて、眞に鬪い得る民主的組織を速かに確立せねばならない。
以上述べた第三、四項は電産が直面している非常事態に対処して、先づ確認せられねばならぬ不可欠の事柄であり、この事を曖昧にして今後の電産の正しい在り方を期待する事はもはや出來ない。從つて之に同意しない者と行動を同じくする事は全く不可能であり、今後の電産の組織は以上を了解し同意する組合員によつてのみ確立せられのである。
六、以上の上に立ち中央本部は非常事態收拾の爲次の如く指令する。
1 爾後電産は前記の第三、四、五項を確認する組合員によつて組織を維持し運営する。
2 その爲全組合員は本指令に対する態度を速かに決定し別に指示する手続に從い八月十日迄に所定の様式による確認書を中央本部に提出せよ。
3 中央本部はこの確認書を最終的に審査し、之により電産組合員名簿を整備する。
4 此の名簿により、規約(選挙規則を含む)に從つて新に中央代議員及び中央役員の選挙を行い中央大会を開催する。
尚選挙実施については中央本部より別途指示する。
5 中央大会開催期日は九月と予定する。
6 中央本部は前記第3項による電産組合員名簿の整備後は、この名簿を基礎として中央大会迄の間一切の執行に当る。
7 本指令の解明並に之が遂行の爲の必要なる処置はすべて中央本部が行う。 以上